内分泌科

はじめに

内分泌科では、体内の様々な機能をコントロールしている「ホルモン」に関する病気を専門的に診療します。代表的な疾患として、膵臓のホルモン異常による糖尿病、副腎のホルモン異常によるクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)、甲状腺のホルモン異常による甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などがあります。
これらの病気は、初期には「水をよく飲む」「毛が抜ける」といった症状が見られます。初期は明らかに不調にはみられませんが、放置すると体重減少や急激な血圧低下、血栓症など重篤な合併症を引き起こし、命に関わることもあります。

当院では、ペットの普段の状態を丁寧に伺う問診を行い、血液・ホルモン検査を外部に依頼し診断を行います。これらの疾患は長期的な治療管理が不可欠であるため、飼い主様と二人三脚で最適な治療計画を立てサポートを提供いたします。

こんな「ホルモン異常」のサインはありませんか?

  • 多飲多尿
    水を飲む量、おしっこの量が急に増えた(糖尿病、クッシング症候群の可能性)。
  • 食欲と体重の変化
    食欲があるのに痩せる(糖尿病)、または食欲が増し、お腹が膨らむ(クッシング症候群)。
  • 脱毛・皮膚の異常
    左右対称の脱毛、皮膚が薄くなる、色素沈着が見られる(甲状腺、クッシング症候群)。
  • 元気・活発さの低下
    以前より活動性が下がり、よく寝ている、寒がる(甲状腺機能低下症)。
  • 震え・意識の異常
    血糖値の急激な変化など、ホルモンに関連した緊急性の高い症状。
  • 継続的な嘔吐・下痢
    消化器疾患と見分けがつきにくい、副腎皮質機能低下症(アジソン病)などの可能性。
    これらの症状は老化や他の病気と区別が難しい場合があります。気になるサインがあれば、ホルモン検査をご検討ください。

当院の内分泌科診療と検査

1.ホルモン検査

内分泌疾患の診断には、通常の血液検査に加え、専門的なホルモン負荷試験や画像検査が必要です。

血液検査(T4、血糖値など)

甲状腺ホルモン値、血糖値、腎臓や肝臓への影響をチェックします。

負荷試験(ACTH刺激試験など)

ホルモン値を意図的に変動させ、副腎や甲状腺などの臓器機能が正常かを詳細に調べます。

尿検査

尿糖や尿比重、尿中のコルチゾール/クレアチニン比などを測定し、多飲多尿の原因を特定します。

超音波検査

膵臓、甲状腺、副腎の大きさや形態を観察し、腫瘍や異常がないかを確認します。

2.長期的な薬物管理と指導

内分泌疾患は完治が難しいことが多いため、適切な治療薬の選定と、ご自宅での正確な管理が重要です。

糖尿病管理

インスリン投与の指導、血糖値測定方法、持続血糖測定器(リブレ)の使用方法、食事管理のサポートを行います。

甲状腺・副腎疾患の薬物治療

内服薬によるホルモン補充療法(低下症)または抑制療法(亢進症)を行い、定期的な血液検査で薬の量を微調整します。

経過観察

治療開始後も定期的な通院検査により、ホルモン値や血糖値が安定しているか確認し、合併症の予防に努めます。

犬猫の代表的な内分泌疾患

糖尿病

膵臓から分泌されるインスリンの作用不足により、血糖値が高くなる病気です。犬猫のどちらにも見られますが、発症のメカニズムには違いがあります。症状は多飲多尿、体重減少です。気づかず放置すると、重度の脱水とケトン体の蓄積により、糖尿病性ケトアシドーシスという命に関わる非常に危険な病態へと移行します。

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

高齢の犬に多い病気で、副腎から分泌される副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が過剰になる病気です。多飲多尿、多食、腹部膨満、脱毛がみられ、無治療のままだと、血栓症などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。

副腎皮質機能低下症(アジソン病)

高齢の犬に多くみられる、副腎皮質ホルモンが不足する病気です。元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢などがみられ、重症化するとショック症状(アジソンクリーゼ)を起こすことがあります。

甲状腺機能低下症

高齢の犬に多くみられる、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが不足する病気です。活動性の低下、体重増加、脱毛、皮膚の肥厚などが主な症状です。

甲状腺機能亢進症

高齢の猫に多い病気で、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが過剰になる病気で、特に高齢猫に多く見られます。症状は食欲旺盛なのに痩せる、落ち着きがない、嘔吐、下痢、多飲多尿、心拍数の増加などです。

電解質異常(カリウム、ナトリウム、リンなど)

体内の水分やミネラルバランスが崩れることで生じる病態で、多くの場合、腎臓病や内分泌疾患などの基礎疾患によって引き起こされます。電解質は、神経や筋肉(特に心臓)の働きを調節するのに非常に重要であり、異常が進行すると命に関わる緊急事態になることがあります。原因疾患の治療と点滴治療により、電解質を補正します。

飼い主様へ、そして大切なご家族へ

内分泌疾患は、飼い主様の協力なしには成り立たない病気です。日々の食事、投薬、そして愛情のこもった観察が、ペットの寿命を大きく左右します。
不安なことや疑問に思ったことは、どんな小さなことでもご相談ください。