消化器科

はじめに

わんちゃん・ねこちゃんの「嘔吐」や「下痢」は、飼い主様が遭遇する機会の多い症状の一つです。ストレスや単純な食べ過ぎが原因であることも多いですが、中には膵炎、異物の誤飲、さらには腫瘍といった重い病気が隠れている可能性もあります。
消化器の健康は、体全体の元気と栄養状態に直結する非常に重要な部分です。「いつものことだから」と軽く考えず、症状が続く場合や、ぐったりしているなど普段と様子が違う場合は、お早めにご相談ください。

お腹のことで、気になる症状はありませんか?

  • 吐いている
    フードや胃液、血が混じったものなどを繰り返し吐く。
  • 下痢・便秘
    水のような便、軟便、血便、または便が数日出ていない。
  • 食欲がない・元気がない
    ごはんを食べない、いつもより元気なく、ぐったりしている。
  • 体重が減ってきた
    食べているのに痩せてきた、または食欲不振で痩せてきた。
  • お腹を痛がる
    お腹を触られるのを嫌がる、背中を丸めている。
  • 異物を飲み込んだかも
    おもちゃや骨、人の食べ物など、何かを誤飲した可能性がある。
    気になる症状が見られたら、自己判断せずにお気軽にご相談ください。

当院の消化器科診療

1. 原因の特定

症状の原因を正確に把握するため、様々な検査を組み合わせて診断します。

問診・身体検査

いつからどんな症状か、食事内容、生活環境などを詳しくお伺いします。

糞便検査

便の状態を確認し、寄生虫や細菌感染の有無を調べます。

血液検査

脱水の程度、炎症反応、肝臓や膵臓など内臓の機能に異常がないかを確認します。

画像検査

レントゲン検査や超音波検査で、異物の有無、消化管の閉塞、腫瘍、内臓の腫れなどを評価します。

内視鏡検査

口や肛門からカメラを挿入し、食道や胃、腸の内部を直接観察します。組織を採取して病理検査を行うことも可能です。

2. 症状と原因に応じた治療

診断結果に基づき、その子の状態に最も適した治療を行います。

内科療法

制吐剤、下痢止め、抗生物質、消化管機能改善薬などの投薬を行います。

食事療法

消化の良い療法食への変更や、アレルギーに対応した食事指導を行います。

輸液療法

嘔吐や下痢によって失われた水分や電解質を点滴で補給し、脱水状態を改善します。

外科手術

異物の誤飲や、消化管の閉塞、腫瘍などが見つかった場合に、手術による摘出を行います。

犬・猫の主な消化器疾患

急性胃腸炎

異物の誤食、人間用の食べ物や高脂肪食の摂取、寄生虫、細菌・ウイルス感染、ストレスなどが原因。突然の嘔吐、下痢(水様便や軟便)、食欲不振。ほとんどが一時的。

膵炎

高脂肪食の摂取、遺伝的素因(ミニチュア・シュナウザーなど)、一部の薬剤の副作用、術後の合併症として発症。激しい腹痛(背中を丸める姿勢)、嘔吐、下痢、食欲不振。重症化すると命に関わることもある。

慢性腸症(炎症性腸疾患/IBD)

食物アレルギー、食事反応、免疫異常、細菌叢の乱れなど、原因が特定しにくい慢性的な腸の炎症。3週間以上続く慢性的な嘔吐や下痢。食欲不振や体重減少が見られるため、長期化するようなら、食事療法、抗菌薬投与し反応が悪ければ消化管内視鏡生検を実施する。

腸閉塞

異物(おもちゃ、骨、布など)の誤食、消化管の腫瘍、腸重積(腸が腸に入り込む)などが原因。激しい嘔吐、腹痛、排便の停止(または少量の下痢)。緊急手術が必要なことが多い。

消化管腫瘍

リンパ腫、腺癌、良性の腫瘍が原因となり、慢性的な嘔吐・下痢、体重減少、食欲不振、血便が起こる。取り切れるものなら外科的に取り除く。リンパ腫の治療は化学療法

寄生虫感染

回虫、鉤虫、ジアルジアなどが原因。子犬に多く、下痢、血便が続く。顕微鏡で直接便を確認する方法や、浮遊法で原因を特定する。顕微鏡で何も確認できないが、消化器症状が続く場合はPCR検査を実施する。

犬猫の主な胆嚢・肝臓疾患

胆嚢粘液嚢腫

胆嚢内に粘性の高いゼリー状の物質(ムチン)が異常に蓄積し、胆嚢が拡張し、機能不全に陥ったりする病気です。初期には無症状ですが、進行すると胆管閉塞や胆嚢破裂を引き起こす可能性があります。

胆嚢炎

消化管(十二指腸)から総胆管をさかのぼって胆嚢内に細菌が入り込み、炎症を引き起こします。

胆管炎・胆管肝炎

猫に多く起こる疾患で、胆管と肝臓に炎症が起こる病気です。腸管内の細菌が胆管をさかのぼって感染することが主な原因好となる中球性胆管炎・胆管肝炎と、免疫機能が過剰に反応することが原因となるリンパ球性胆管炎・胆管肝炎に分かれる。

慢性肝炎

肝臓に炎症が長期間続く状態で、ゆっくりと進行し、最終的に肝硬変に至る可能性のある病気です。初期段階では症状がないことが多く、健康診断で肝臓数値の上昇が偶然みられることが多いです。銅の蓄積(遺伝性)や一部の薬剤が原因として挙げられるが、原因が特定できない(特発性)が多い。

飼い主様へ、そして大切なご家族へ

言葉を話せない動物たちにとって、食欲・体重の変化・便の状態は健康のバロメーターです。日々の小さな変化に気づき、早めに対処してあげることが、ご家族の健康を守る第一歩となります。飼い主様とのコミュニケーションを大切にし、納得いただけるまで丁寧に説明いたします。不安なこと、分からないことは、何でもご相談ください。