整形外科・神経科
はじめに
整形外科では、骨、関節、靭帯、筋肉などの運動器のトラブル(骨折、脱臼、関節炎など)を扱います。神経科では、脳、脊髄、末梢神経の病気(椎間板ヘルニア、てんかん、麻痺など)を専門的に診療します。
これらの疾患は、ペットに「痛み」と「運動機能の低下」を引き起こします。特に椎間板ヘルニアや重度の骨折などは、迅速かつ専門的な診断・治療が欠かせません。
当院では、ペットが本来持っている「動きたい」という欲求を大切にし、詳細な神経学的検査と画像検査を基に、正確な診断を行います。痛みの管理を最優先し、外科手術、内科療法、そして術後のリハビリテーションまでを一貫してサポートすることで、再び元気に歩けるよう最善を尽くします。
こんな運動・神経のサインはありませんか?
- 足を引きずる(跛行)
歩くときに片足をかばう、地面につけようとしない、散歩を嫌がる。 - 突然の麻痺・ふらつき
急に後ろ足が立たなくなった、歩行時に体が傾く、まっすぐ歩けない。 - 震え・発作
全身が震える、意識を失って手足を突っ張る(てんかんの可能性)。 - 関節の動きの異常
立ち上がるのを嫌がる、関節が腫れている、特定の動きで痛がる。 - 強い痛み
触られるのを嫌がる、抱き上げると鳴く、特定の姿勢で固まる。 - 頭を傾ける(斜頚)
常に頭が一方に傾いている、眼球が揺れる(前庭疾患の可能性)。
これらの症状はペットが大きな痛みを感じているサインです。進行すると不可逆的になる場合もあるため、早期の検査が必要です。
当院の整形外科・神経科診療と検査
身体検査
視診・触診を行い、症状や病変部を絞っていきます。身体検査を行うことにより、整形疾患と神経疾患を鑑別し、検査の必要性や次に行うべき検査を決めることができます。
神経学的検査
神経疾患の場合、反射、姿勢反応、歩行状態を詳しくチェックし、病変の部位(脳、脊髄、末梢神経)を絞り込みます。
レントゲン検査
骨折、脱臼、関節炎の進行度、関節の変形、椎間板の石灰化などを詳細に評価します。
関節液検査
注射針で関節内の液体を採取し顕微鏡で観察することで、関節炎の診断をします。
血液検査
発作が見られたときに、その原因が脳なのか、それ以外なのかを判別するのに使用します。また多発性関節炎や筋炎などの炎症性疾患との鑑別に利用します。
CT・MRI・脳脊髄液検査
脊髄や脳の疾患(ヘルニア、腫瘍、脳炎)が疑われる場合は、二次診療施設と連携し、画像診断を行います。
治療
内科療法
整形疾患
消炎鎮痛剤、免疫抑制剤などを用い、痛みのコントロールを行います。滑り止めマットの設置、食事管理、補助具の使用など、ご自宅でのケア方法を具体的にアドバイスします。
神経疾患
発作などの継続治療が必要なものに対しては、発作の頻度や発作薬の血中濃度を参考にしながら、薬の種類と量を調節していきます。
外科手術
一部の整形疾患は対応可能ですが、骨折、椎間板ヘルニアなどの疾患は対応できる設備が整っていませんので、信頼できる病院に紹介させていただきます。
犬に多い整形疾患
股関節形成不全
股関節が正常に形成されず、関節に緩みが生じることで、最終的に変形性関節症を引き起こし、痛みや歩行障害を伴う遺伝性疾患です。主に大型犬に多く見られます。
膝蓋骨脱臼
膝の皿(膝蓋骨)が本来収まっている溝(滑車溝)から内側または外側に外れてしまう病気です。特に小型犬で多く見られる、代表的な整形外科疾患の一つです。膝蓋骨脱臼は、脱臼の程度によってグレード1から4に分類され、症状と対応はグレードによって異なります。
前十字靭帯断裂
大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯が切れてしまう疾患です。この靭帯が切れると、膝関節の安定性が失われ、歩行困難が見られます。靭帯損傷時に膝関節内にある、半月板が損傷すると、歩行時に強い痛みを生じます。
変形性関節症(関節炎)
関節の軟骨が徐々にすり減り、関節の周囲に炎症が起き、最終的に骨が変形して痛みと運動機能の低下を引き起こす、進行性の慢性疾患です。
椎間板疾患(椎間板ヘルニアなど)
脊椎の間にある椎間板が損傷し、痛みや神経症状を引き起こします。症状は5つのグレードに分類され、治療法の選択や予後に大きく関わります。
猫に多い整形疾患
変形性関節症(骨関節炎)
猫で最も多く見られる整形外科疾患です。特に高齢猫では高い確率で発症していると言われています。加齢や肥満などが原因で、関節の軟骨がすり減り、炎症や骨の変形が生じます。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症
スコティッシュフォールドという猫種の遺伝的な先天性疾患です。骨や軟骨の形成に異常が生じ、足首や尾の関節に骨が増生し、変形性関節症を若齢から発症します。
犬猫の神経疾患
てんかん
脳の神経細胞が異常に興奮することで、けいれんや意識障害、異常行動などを繰り返す慢性の脳の病気です。完治は難しい病気ですが、適切な投薬治療によって発作の頻度や重症度をコントロールすることができます。
脳炎
パグ、マルチーズ、チワワなどの小型犬に多いく、ふらつき、旋回、視力低下、痙攣がみられる。難治性の疾患であり、完治は困難で、生涯にわたる投薬管理が必要になることがほとんどです。
特発性前庭疾患
特に高齢犬に多く見られる、原因不明の平衡感覚障害です。突然のふらつきや頭の傾きなどが特徴で、命に関わることは少ないものの、後遺症が残ることもあり飼い主のサポートが重要です。斜頸や眼振が特徴的です。
飼い主様へ、そして大切なご家族へ
ペットが歩き方を変えた、段差を嫌がるようになった、という変化は、痛みのサインかもしれません。これらのサインは「歳のせい」と見過ごさずに、診断し治療を開始することで、改善する可能性があります。また、てんかんのような神経症状は無治療のままだと、命にかかわってきます。気になる症状があれば、ご相談ください。

